暫くは忙しい日が続いたせいでロクな事も話せなかった
深海にいた期間も長かった上、療養していた期間もあったから尚更だろうか
やっと帰ってきたすぐ後、あいつは魔王の心臓を奪ったエンドブレイカーを助ける為の戦いへと赴いて行った
今は全ての者が無事に戻って来るよう祈る事しか出来ない
……帰って来たら誕生日の祝いをしたい

窓の外に目を向ければ、運河の水が微かな光を反射して煌めく
あいつがこの光景を見たら喜んだろうか
帰って来たら自慢してやろう。悔しがる顔が目に浮かぶようだ
目を瞑り想像する
しかし悔しがる顔ではなく、微笑む顔が見えてすぐに目を開いた
「あいつらしい」
呟きながら再び窓の外に目を向ける
水は相も変わらず其処にあり、静かに光を湛えていた

今日は迷子になっていた姉弟の親を探していた
幼い子供にどう接したら良いのか分からなかった私はほぼノアに任せきりだったが
泣きじゃくる弟の小さな手をしっかりと握りしめる小さな姉
その姉の手を優しく握るノアの大きな手
子供達にとっては決して心穏やかな時間ではなかっただろうが、私にとっては穏やかな時間に感じた
後ろから見る三人の姿から人同士の絆を感じたからだろうか。自分でも良く分からない
因みに親捜しにさほど時間はかからず、二時間程で見つける事が出来た
気丈に振る舞っていた姉も緊張の糸が切れたのか、母親に抱きついて泣きじゃくる姿が微笑ましかった事を覚えている
別れる時は、二人とも涙でぐしゃぐしゃになった顔に満面の笑みを乗せていた


何やら風の噂で獣王に電撃戦を仕掛けると聞いた
明日には一度街角まで戻ってみよう

当てもなくアクエリオの中を歩き続ける旅。それが始まって一日目

ふと隣を歩いていたノアの姿が無い事に気付いた
歩くのが早すぎたかと後ろを見遣れば、水路を眺めているノアの姿が視界に入る
どうしたかと問えば、ノアは一度私を見て微笑み、しかしすぐに水路に顔を向けた
「水面がきらきらと光ってて綺麗だったから」
その言葉に水路へと目を向ければ、ノアの言う通りの光景が広がっていた
光を浴びて輝く水路は普段ならば気付かずに素通りするが、こうして見ていると確かに美しい
「綺麗でしょう？」
こちらを見ずに呟くノアに、私も水路に顔を向けたまま頷いた